小説「人生を変えた猫」プロローグ〜第3話

2019年3月23日。

我が家の愛猫「ぐれおじさん」が他界しました。

16歳でした。

とても温和で、我が家の猫たちの面倒を見続けてくれた優しい猫。

彼は猫嫌いだった僕の人生を180度変えてくれたました。

そんな「優しすぎる猫」のお話。

 

プロローグ

 

「愛してるよ。ありがとうね。愛してる。愛してる・・・」

これほど「愛してる」っていう言葉を発した日はこれまでの人生において他にないと思います。

2019323日。愛猫のぐれおじさんが虹の橋を渡りました。

時折、小さな痙攣をしながら、だんだんと遠くに行こうとしているのが手に取るように分かりました。

「行かないで!」

その言葉を飲み込んで、

精一杯の「愛してる」を搾り出しました。

まだ聞こえるうちにと、

彼の耳元で、

何度も何度も。。。

そして、2350分。

「ぐぅぅ」と縮こまったかと思うと、

彼は、すうっと眠りにつきました。

今、

ようやく冷静にあの日のことも振り返れるようになったので、

僕の人生を変えた猫、ぐれおじさんのことをお話ししていきたいと思います。

第一話「猫嫌い」

ぐれおじさんは、僕の元奥様(このお話ではYuさんとさせていただきます)の飼っていた猫。

2003年に誕生しました。

Yuさんと出会う前に生まれた子なので、僕はその現場には居合わせていません。どうやら、半分野良状態の2匹の猫から生まれたようです。

親猫の1匹は黒猫、もう1匹は白猫。

Yuさんはよく、

「ぐれちゃんたら、体の色も気を使って半分半分なんだね」

なんて言ってたっけ。

Yuさんの寝ているベッドの中で出産したようで、生まれた瞬間から人間が目の前にいたのだから、人間好きに育つのも納得です。

さて、唐突にカミングアウトいたしますが、

僕は猫がとても苦手でした。

小学生の頃、下校途中に会った野良猫に思いっきり顔を引っかかれてから、

「なんて野蛮な生き物なんだ!」

そう思い続けてきました。実家は昔から犬を飼っていたものですから、余計に、

「犬は優しい、猫は凶暴」

と信じて生きてきたのです。今思えば、道端で知らない子供が寄ってきたら、猫だって警戒しますよね。その猫は何にも悪くないのに、20台も半ばになるまで、偏見を持ち続けていたとは、何とも視野の狭い男でございます。

とまあ、そんな事情でしたから、Yuさんと出会った時に、

「私、猫飼ってるの♪」

と打ち明けられて、

「え?信じらんない!」

と言ったとか言わなかったとか。

僕は記憶に無いのですが、Yuさんの証言ですからきっとそれに近しいことを口走ったのでしょう。

それほど猫様に対して、敵対心を持っていたのは事実でございます。

でも、

初めてYuさん宅にお邪魔して、ぐれおじさんを紹介された時、猫様に対する印象が一変するのでした。

第一話 完

第2話「カスガイ」

2003年、当時、元奥様のYuさんの家は中野にあるワンルームのアパートでした。

まだちゃんとお付き合いする前、初夏の頃だったと思います。はじめてお宅に遊びに伺ったのですが、

小学生の時に顔をひっかかれて以来、猫を触っていなかった僕はおそるおそる部屋に入りました。

ところが、部屋の奥にちょこんと座っていた猫を見て

「え?変な顔!」

思わず口に出てしまいました。

だって変な顔なんですもん。

なんというか、猫らしい精悍さは欠片もなく、なんとも緩んだ表情。マズル(鼻の周り)がやたら大きくて、むーっとした顔つき。ロシアンブルーっぽい灰色なんだけど、体型もだらしないし、ゆるキャラのような猫でした。

その第一印象で、恐怖心が和らいだのと、Yuさんの手前、良いとこ見せなきゃという気持ちから、

「ぐれちゃ〜ん」

と呼んでみました。

するとどうでしょう。

トコトコとそばまでやって来て、手に顔をスリスリしてくれるではないですか!

人生初の猫スリスリ。

ツルツルの毛の気持ちよさ。

口の横あたりや、おでこを何度も手に擦り付けてくるんです。

「え?ほんとに猫なの??」

と確認してしまいました。

猫=凶暴

そんなイメージが木っ端微塵に砕け散りました。

もう1度、

「ぐれちゃ〜ん」

と呼ぶと、

僕の目を見て、

「にゃぁ~お~ん」

もう、虜になってしまいました。

その後、何度かYuさん宅に通ううちに、気持ちの三分の一くらいは、ぐれおじさんに会うことが目的になってしまいました。

そして、次第に、Yuさん宅に泊まる機会も増えていったのでございます。

子は”かすがい”

などと申しますが、ぐれおじさんは間違いなく2人のキューピッドでした。

彼の功績は、猫嫌いを変えてくれただけでなく、素敵な出逢いをもたらしてくれたことにもあるんです。

ありがとうね。

そんなぐれおじさんですが、これまで一人では動物を飼った事の無かった僕に、このあと、色んな経験をさせてくれたのでございます。

2話 

 

 

第3話「グルメな猫」

ぐれおじさんのことを想う時、ご飯の時の様子がまっさきに浮かんで参ります。

若い頃のぐれおじさんは好奇心が旺盛で、御飯の時間になると僕の隣に座って、

「にゃあ~おん」

と良く鳴いたもんです。

「ご飯ちょ~だい」

ってやつです。

元奥様のYuさんと産まれた瞬間から一緒なもんだから、自分のことを人間だと思ってたんでしょうね。

あまり人間のご飯はあげたら良くないと分かっていましたが、目をじーっと見つめて

「にゃ~おん」

なんて言うので、ちょこっとあげたりしちゃってました。

僕の大好物が唐揚げで、最高のご馳走はケンタッキーだったもんだから、ぐれおじさんの好物もそうなっちゃったんですよね。唐揚げやケンタッキーの日はダッシュで横に座りに来てたっけ。

ちなみにケンタッキーを食べてると、「サイ」と呼ばれる部位(1番脂の乗ってる四角いモモの部分)の骨の近くに、内臓のようなものがくっついてるのご存知でしょうか。あれ、腎臓らしいのですが、そこがお気に入りでしたね。お気に入りというか、食べても美味しくないので、そこを主にあげてたんですが。

僕の甘やかしのせいで、すっかりグルメになってしまった、ぐれおじさん。大きくなってからは人間のご飯はあげなくなったのですが、グルメ体質は残ってしまって、いわゆる「カリカリ」は食べずに「缶詰」のご飯ばっかり食べるようになってしまいました。

その反省を活かして、その後の猫たちは猫フードのみで育ててきたのですが。

おかげで、ぐれおじさんの晩年に、療法食を与えるのは至難のわざでした。グルメなもんで。

でも、晩年、唐揚げにも

「にゃ~おん」

って反応しなくなった時は、

「あぁ、相当辛いんだなあ。。。」

って、心が締め付けられる思いでした。

自分で食べる力がなくなってからは、注射器のようなもので療法食をあげるようになりました。なかなか上手くいかなくて、相当時間がかかったりしていましたが、その時間も今となっては宝物なんですよね。

ご飯にまつわる思い出もだいぶ変化していきましたが、どれも僕にとっては大切な思い出。

今頃お空の上で、大好きな唐揚げ食べてるかな。

第3話 完

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