小説「人生を変えた猫」第8話〜第11話

第8話「幼き記憶」

 

我が家にやってきたティオ。

今では7匹の子供をもうけて立派なパパなのに、とても気が小さい。マンチカン一家の中で気を許してるのはママ猫だけ。子供たちには未だに「シャーッ」って威嚇したりします。

でも、ぐれおじさんとゆき姐のことは完全に親だと思っているんです。

この2匹には1度も「シャー!」って言ったことは無いし、ぐれおじさんにはいつも自分から寄っていってました。ぐれおじさんが近くにいると、体を擦り寄せに行ったり、ぐれおじさんが寝ていると、そっとそばで横になったり。

人間に対しても同じで、お客様が来ると、始終ビクビク。でも、僕に対してはいつも甘えんぼ。「頭撫でて~」、「お腹撫でて~」ってせがんでばかりいます。

この違いはなんだろうと考えたことがあるのですが、やはり、小さい時の記憶がとても深く刻まれてるからではないでしょうか。猫は匂いで認識してるとも言われていますが、見た目も、匂いも、総合的な記憶が脳の奥底に刻まれて、それは年齢が幼ければ幼いほど、消えることのない記憶になるんだと感じます。

「刷り込み」ってありますよね。鳥などが生まれてすぐに目にしたものを親だと思う生物学的現象。親かほかの生物かを本能的に知ることで、餌を獲得したり、外敵から身を守る利点があるんですよね。猫にもそれに近いものがあるのでしょう。小さい頃に世話をしてくれた生き物が親なんでしょうね。

ましてや、ぐれおじさんと僕は、ティオパパが小さい頃から撫でてばかりいるもんだから、ますます深く刻まれてるんでしょう。

厳密に言うと、ぐれおじさんが父親で、僕がおじいさんなのかな。

ぐれおじさんの父親は僕になるでしょうから。

僕には子供はいないけれど、ぐれおじさんが亡くなった瞬間は、本当に実の子を失った悲しみに打ちひしがれました。なんで人間と猫の寿命がこんなに違うのって、理不尽だとすら思いました。

生き物を飼うというのはそういうことなのだろうし、魂というものを信じてはいるので、またあの世で会えると信じているんだけれど、それでも、子供を失うのは辛い。

でも、その分、今いる子たちが健康で長生きできるように頑張るのが親の務め。

ぐれおじさんの分まで、寂しがり屋のティオパパにも沢山構ってあげなきゃね。

ぐれおじさんのことは、また会ったら沢山撫でてあげるね。

第8 

 

第9話「マンチカンの真実」

「君、足短いねぇ」

短足猫のティオパパに、飼い主ですら思います。

ほんとに短い。

マンチカンという種はアメリカで見つかった短足な猫を元として、品種として固定されたものだそうです。ところが、マンチカンの中には「足長マンチカン」というのもいる事実は案外知られていない。

僕がそれを知ったのは、はじめてティオパパに会いに行ったブリーダーさんのお店でした。

マンチカンという猫は短足同士を掛け合わせたら、死産や奇形のリスクが高いから禁じられていること。短足と足長を掛け合わせたら、3分の2くらいや確率で足長が産まれること。足長は見た目普通の猫だから、短足の三分の一の金額で市場に出ていること。悪徳業者は、コストと見合わない金額から、足長を処分することもあること。

短足のティオパパを迎え入れるために行ったブリーダーさんで聞いた事実は、僕の心に引っかかり続けていました。

そして、ティオパパから一年後、我が家に足長マンチカンがやってくるのでした。

ママ猫となる、メルちゃんです。

マンチカンのティオパパの遺伝子を残してあげたいという気持ち、そして、足長マンチカンという存在を伝える役目として、メルママを迎え入れました。

猫嫌いだった僕が、保護猫を受け入れたり

ブリーダーさんのところまで行ってマンチカンを迎え入れたり

そして、猫のことをもっと世の中の人たちに知ってほしいと、足長マンチカンも我が家へ。

ぐれおじさんに出会わなければ起こりえないことばかり。

ぐれおじさん、ありがとう。

 

そして、メルママにはぐれおじさんの偉大な母性が受け継がれることになるのですが。

第9 

 

第10話「足長マンチカンがやってきた」

 

我が家に2匹目のマンチカン、「メル」がやってきました。

メルは足長マンチカン。それはそれは天真爛漫で、初日こそ警戒していましたが、すぐに家中を駆けずり回るようになりました。

ぐれおじさんはいつものように優しく面倒をみてくれました。

ゆき姐はメス猫の在り方を教えているようで、優しくしたり、制裁を加えたり。

ある日のこと、

メルがゆき姐にちょっかいを出しました。

メルの左がゆき姐に直撃と思った瞬間、

ゆき姐の見事なクロスカウンターが炸裂しました。

メルはたいそう可愛がって育てられました。

ティオパパも、最初こそ「シャーッ」と言っていましたが、すぐにメルを気に入ったようでした。

ところが、毎回返り討ち。

メルの猫パンチで追い返されます。

メルは、明らかに先住のティオを下に見ておりました。

なんでこんな上下関係が生じたのか不思議だったのですが、ひとつの仮説は、

「足が長い方が優位」

というものです。

ぐれおじさんもゆき姐も、メルとは仲良し。メルも本当の親同様に懐いていましたから。

とはいえ、短足猫はこの時点でティオパパだけでしたから、この仮説の実証はまたあとのお話になります。

まあ、いずれにしても、ティオパパの弱さを見て

「あぁ、この2匹は夫婦にはならないかな」

そう思っていました。

しかし、ティオパパの愛は人間の予想を超えていました。

何度も何度めげずにメルにアプローチ。

そして、メルが生後半年を超えた頃、我が家の2階の猫部屋から、メルのいつもと違った鳴き声が聞こえて来ました。

ティオの愛が成就したようでした。

第10 

 

第11話「ティオの自立」

短足マンチカンのティオが、足長のメルに惚れ込んで以来、ティオは少し大人になったようで、僕やぐれおじさんに甘える頻度が減ったような気がしました。1人の男になったということなのでしょうか。

 

一方、メルは相変わらず大はしゃぎ。ぐれおじさんやゆき姐と楽しく遊んでおりました。

ティオは1人で遊んでいたり、タイミングをずらして僕に遊んでとせがんできたりしていました。自然なことなのでしょうが、僕は少し可愛そうだなと感じていました。

そんな中、ぐれおじさんはたまに寄っていって気にしてくれていました。

最後の最後までティオがぐれおじさんのことを慕っていたのは、そんなぐれおじさんの尽きることのない愛情のおかげだと思います。特にティオは臆病なところがあるから、ぐれおじさんがいなかったら、家族の中に馴染んでいなかったかもしれませんね。

そんな成熟期の変化もありつつ、ティオパパはメルママにアプローチを続けていました。でも、どうしても短足だから、足長のメルと愛し合うのは少し大変そうでした。短い足を精いっぱい踏ん張りながら、必死に食らいついてメルを後ろから抱きしめようとする様子は、申し訳ないけれど滑稽な姿でした。

僕は正直、

「頑張ってるけど、子供、出来ないかもね」

そう思っていました。

そして、およそ2ヶ月後、

なんとなく、メルが最近太ってきたなと思うようになり、最初は特に気にしていなかったのですが、ある日、ふと、「ん?まてよ、、まさか、、」という気持ちが生じて、病院に連れていったのです。そこで、衝撃の事実が告げられたのでした。

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