第4話「猫の鼻風邪」
16歳でこの世を去った愛猫ぐれおじさん。晩年、病にかかるまでは、本当に手のかからない猫でした。病院に連れて行ったのは去勢、風邪、軽いやけどの3回のみ。でも、風邪の時は結構大変だったかな。
ある日の朝、少し鼻水が出てるなと思いながら仕事に行きました。帰ってくると、息が苦しそうにしているではありませんか。
「ハッハッハッ」
と犬のように下を出して呼吸しているんです。慌てて近所の病院に担ぎこみました。
「あー。風邪ですねぇ。お薬出しときますねぇ」
お医者様が思いのほか、サラッと答えました。
「苦しそうだけど、大丈夫なんですか?」
と聞くと、
「猫はねぇ、鼻呼吸なんだよ。今この子、鼻が詰まっちゃってるから、息しにくいんだろうね」
と。
いやいや、ホントに苦しそうなんですけど。
でも、とりあえず薬を飲ませて様子みて下さいとの事だったので、家に連れ帰り、言われた通りに薬を飲ませることにしました。
ぐれおじさんにとっては初めてのお薬。それはそれは苦かったんでしょう。最初は何度も吐き出して苦労しました。粒のやつは細かく砕いたり、オブラートに包んだり、1番うまくいったのは、ペースト状のエサに混ぜて、指にくっつけ、口の中の上顎の裏に塗ってあげるやり方。すると、仕方なく舐めとってくれるんです。
翌日も3回、一生懸命薬を飲ませました。鼻水も何度も何度もふきとってあげながら。
夜もこまめに起きては鼻水を拭いてあげました。
2日目の朝、ハッハッといってた呼吸が少し楽になったようでした。
そして、3日め。ようやく鼻呼吸が再開。何とか回復したのでした。
めでたしめでたし。
それからというものの、ぐれおじさんの僕に対する甘えっぷりが増したような気がします。助けてくれた人間って思ってくれたのかな。あの時はホントに必死だったから。
一緒に頑張ったもんね。吊り橋効果ってやつかな。
そして、薬を飲ませるのが上達したおかげで、今のマンチカンズに薬を飲ませる時も難なくこなすことができるようになりました。
子育てと同じように、飼い主も成長するんだね。ありがとう。
彼の残してくれたお土産には、そんなものも含まれているのでした。
第4話 完
第5話「オス猫の母性」
ぐれおじさんは、人間が大好きな猫でした。
ご飯の時も一緒、寝る時はお布団に潜り込んでくるし、仕事の送り迎えは必ず玄関まで来てくれていました。
何をするのも一緒でした。
そのため、自分のことを人間だと思ったからなのでしょうか、
彼には驚くべき母性が目覚めたのです。
実は、マンチカンズが我が家に来る前、二匹の保護猫を招き入れました。
1匹目は「トラちゃん」。
ぐれおじさんが2歳の頃、何か保護猫活動のお力になれないかと、保護猫団体のサイトでご縁があり、我が家に招き入れました。
トラ柄の、それはそれは可愛い猫で、ぐれおじさんが一生懸命面倒を見てくれました。
そして、間もなく、今も我が家にいる「ゆき姐」がやって来ました。
僕の元教え子が、多摩川河川敷に捨てられていた子猫を持ってきて、
「うちでは飼えないから面倒見てくれないか」
と。
ぐれおじさん、最初は警戒してましたが、すぐに打ち解けて、ゆき姐のこともお母さんのように面倒見てくれました。
寝るときも、ゆき姐を抱きしめて寝ていたり、
「それは、猫の育てかたでは無いよね?」
と思うような行動もしていました。
全くおかしな猫でございます。
ところが、トラちゃんとゆき姐は、お互い小さかったこともあり、なかなか仲良くなってくれませんでした。どうしたものかと悩んでいた時、たまたま我が家に遊びに来た友人が、トラちゃんに一目惚れして引き取って下さいました。おかげで、今もたくさんの愛情をもらって元気に過ごしています。
人間もそうかもしれませんが、3匹ってなかなか難しいなと、その時思いました。特に、捨て猫ちゃんは警戒心も強いから、仲良くなれない場合もあるのかな。
でも、ぐれおじさんは仲の悪かった猫がこれまで1匹もいないのです。
前世は猫好きな人間だったんじゃないかな。
他の猫が気がたってても、
「まぁまぁ、仲良くしましょうや」
そんなオーラを放ってました。
僕も彼から穏やかさを学んだ気がします。
平和が一番。
そして、
我が家に、最初のマンチカンズがやってくるのでした。
第5話 完
第6話「マンチカンズTV誕生」
2011年、ぐれおじさんが8歳の初夏、我が家にマンチカンズ第1号がやって来ました。
マンチカンのティオパパです。
「マンチカン」という猫の存在はその2年前に教え子から教わったのですが、
「マンチカン??変な名前!足短くて変なの!」
という印象でした。
それから2年後、たまたま我が家の近くにマンチカン専門のブリーダーさんがいらっしゃるのを知り、一度生で見てみたいというのがきっかけでした。
お店に行ってみたら、まあ、たくさんの短足猫がいた訳ですが、その中でも一番頭が大きくて、滑稽な猫がティオパパでした。
一目惚れでした。
ブリーダーさんも
「この子が一番マンチカンっぽい子なんだよ!もっと頭が大きくなって、面白い子になるよ!」
と。
本当にそうなりました。
ティオパパが来た日は、ぐれおじさんもゆき姐も
「シャーッ!」
っ言ってましたが、あっけらかんとしたティオパパと仲良くなるのはあっという間でした。
例によってぐれおじさんは、ティオパパを暖かい目で見守り、遊ぶ時は遊ばせ、寝る時は添い寝してあげ、お母さん代わりが完璧。
ゆき姐はたまに制裁も加えながら、
「しょうがないわね、子育てはあんたに任せたわよ」
ってぐれおじさんに言いながら、そばにいてくれました。
まるで、養子を迎え入れた夫婦のようでした。
もちろん、ぐれおじさんが母親。
誰が教えた訳でもない子育て。
血の繋がりもない子猫を、お乳が出るわけでもない猫2匹が育む姿は、心から癒されました。
そして、この滑稽なマンチカンという猫と、微笑ましい家族の姿を独り占めしておくのはもったいないと思い始めたのです。
それが、YouTubeチャンネル
「マンチカンズTV」。
誕生の瞬間でした。
そこからまた、色んな事件が起こるのですが、、、
第6話 完
第7話「お散歩」
マンチカンのティオが我が家にやってきて、我が家は一気に明るくなりました。
短い足で駆けずり回ったり、意外とジャンプもできたり、ぐれおじさんの尻尾で遊んだり。
でも、小さい頃から苦手なことが一つありました。
ぐれおじさんも大の苦手なこと。
それは、
お散歩。
ぐれおじさんは、お外が大嫌い。
何度かお散歩に連れて行ったのですが、外に出ると、
地面に伏せて、一切動かなくなるか、
僕にしがみついてガタガタ震えるかのどちらか。
猫って縄張りで生きるから、お散歩苦手な猫も多いのですが、ぐれおじさんの怖がりっぷりは尋常ではなかったのです。
そして、それはティオパパにも引き継がれたようでした。
ティオパパも公園にお散歩に連れて行ったことがありますが、ずっと
「ほふく前進」
してたっけ。
ただでさえ低い姿勢をますます低くして。
全く、なんで似てしまったんでしょうね。
そういえば、ぐれおじさんは一度、間違って外に出てしまい、家の床下に潜り込んで、半日以上出てこなかったこともあったっけな。
あの時はハラハラしました。
生きた心地がしなくて、餌でつったり、色んなおもちゃを駆使しました。
そして、やり尽くして疲れた頃に、ようやく這い出してきて事なきを得ました。
あの怖がりようを見たら、外で生きていくなんて絶対できないと思います。
それからというもの、我が家の猫達は家から1歩も出さずに育ててきたのでした。
ぐれおじさん、今は天国のお庭を散歩してるのでしょうか。
天国でも縮こまってたら可笑しいな。
僕が行った時には、念願のお散歩、一緒にしようね。
第7話 完
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