第16話「奇形!?」
次女のモコの足がほかの2匹と違って、内側に曲がっている!
僕とYuさんは、慌ててモコを近くの病院へ連れて行きました。
「あらぁ。これは…」
お医者様はモコの足を見るなり呟きました。
「これは奇形なのでしょうか」
「なんとも言えないけど、その可能性はありますね」
僕の脳裏には、かつてテレビで見た、足が不自由でタイヤつきの歩行補助具を付けてる猫の映像が浮かびました。
「ひとまず様子を見るしかないですね」
そう言われて、モコを大切に連れて帰りました。
「ずーっと面倒見てあげるからね」
そうモコに話しかけながら。
メルママの傍らにモコを戻してあげると、ほかの2匹を押しのけながら、モコはすぐにおっぱいを飲み始めました。
「こんなに元気なのにな」
内側に曲がった足を引きずっているモコを見て、胸がいっぱいになりましたが、どうあってもモコはモコ。ありのままのモコを精一杯愛してあげよう。そう思ったら、悩む必要などないなと感じました。
それから、五日後
モコの足は少し踏ん張れるようになっていました。
そして、一週間を超えると、なんと、他の子と同じ形になり、普通に歩くようになったのです。
後になって分かるのですが、2度目の出産の時の子は、全て短足。みんなモコと同じような足の形でした。
短足マンチカンは後ろ足が未発達のまま産まれてくるようなのです。
色々調べても分からなかった、お医者様すら知らなかった事実。
短足猫のマンチカンや犬のダックスフントは元来「骨軟骨異形成」という状態が品種として固定されたもの。出生後すぐの足の形は、その名残なのでしょう。
ペットとして多種多様になっている全ての動物は、元をたどれば人間のエゴから生まれたもの。ペットに限らず、家畜も全てそうかもしれません。その是非は色んな意見があるでしょう。ただ、それを認識して、尊ぶこと。それが大切なのではないでしょうか。
僕ができることは、たくさんの幸せをくれている猫達との出会いに感謝して、精一杯愛してあげること。
旅立ったぐれおじさんが教えてくれた一番大切なこと。
産まれてきてくれてありがとう。元気に育ってくれてありがとう。そう言いながらひたすらモコを抱きしめたのでした。
第16話 完
第17話「ぐれおじさんの子猫への愛」
子猫たちは元気にお乳を飲みながらスクスクと成長していきました。
ねこの目が開くのは十日前後のようで、ルナくんとミュウちゃんは九日目、モコたんは十四日目に目が開きました。
目が開いてもすぐに視力がある訳では無いのですが、僕とYuさんは
「こんにちは」
1匹ずつに挨拶をしました。
目が開くとより一層元気にお乳を飲み始めました。
そして、当然、排泄物も増えます。
猫は出生後しばらくは、自分で排泄することができません。母猫が排泄口を舐めてあげることで排泄を促します。それはそれは健気な姿でした。メルはお乳をあげたり、舐めてあげたり、ずっと働いていました。それを見かねたのか、不思議なことが起こったのです。
メルが寝ている時は、長老のぐれおじさんが排泄口を舐めてあげてるではありませんか。
それまで可愛がってくれた、ゆき姐、ティオパパは、この時期を過ぎてからうちに来たので、経験があった訳ではありません。母猫に母性本能としてインプットされているのは分かりますが、血の繋がっていないオス猫がこの行動をするのは本当に驚きでした。
子猫たちも素直に舐められていましたし、安心してぐれおじさんにじゃれていました。
愛は伝わるんだな。
無償の愛を与えてるからこそ、返ってくる。
ぐれおじさんの行動は心に響きました。
メルママもおかげで安心して休めているようでした。ストレスで育児放棄する猫もいると聞きます。メルママが優しく子猫を育て続け、子供たちもみんな優しい子に育つことができたのは、紛れもなくぐれおじさんのおかげです。
ぐれおじさんと猫達の信頼関係は、最期まで続きました。
猫達の心にはぐれおじさんの愛がしっかりと刻み込まれていたのです。
亡くなったぐれおじさんの亡骸に、猫達が1匹ずつ挨拶に来た時、この時の光景がはっきりと思い起こされました。
僕は涙が止まりませんでした。
第17話 完
第18話「子育てする猫しない猫」
子猫を健気に育ててくれるぐれおじさんとは対照的に、実の父親ティオは自分の子という認識がない様子。たまに様子を見に来ますが、すぐ、
「シャーッ!」
と言ってしまいます。
子猫たちはキョトンとした顔。ぐれおじさんには母性が芽生えて、ティオパパには無いのは未だに謎ですが、おそらくティオパパはいつまでたっても自分が子供のつもりなのでしょう。
それにしても子猫たちの、ぐれおじさんへの甘えっぷりは尋常ではありませんでした。寝る時も一緒。遊ぶ時もぐれおじさんの尻尾にじゃれたり、体にタッチしたり。何も言わずに付き合ってくれるぐれおじさんが安心だったのでしょうか。数ヶ月たって、体が大きくなってきても、ぐれおじさんへの信頼は変わりませんでした。むしろ乳離れをしてからは、メルママよりぐれおじさんと遊ぶ時間の方が長くなったかもしれません。日中は3匹で追いかけっこをして、寝る時はぐれおじさんのそばで寝る。そんな光景に毎日癒されたのでした。
3匹の子猫は、全く性格の違う猫に育って行きました。
長男ルナは好奇心旺盛
長女ミュウは天真爛漫
次女モコはいじられ役
長男と長女が一緒にモコをいじる様子は、少し心配ではありましたが、行き過ぎることは無かったので微笑ましく見守っておりました。いつも踏んず蹴られて、短い足が余計短くなるのではないかと思いました。そんな様子を写真に収めたり、YouTubeにアップする毎日。あまり休みもなく働いていた僕にとっては心から癒される趣味となっていきました。そんな中、とある動画が信じられない程の注目を浴びることになったのです。
第18話完
第19話「人生の転機」
僕が運営しているYouTubeチャンネル
「マンチカンズTV」
最初に猫動画をアップしたのはティオパパがやって来た2011年ですが、当時は定期的にアップしていた訳ではなく、再生数も多くはなかったので、気まぐれに作っていた程度でした。それが、週一程度でアップし始めたのは、2013年に驚くべき変化が訪れてから。
マンチカンの子猫3兄妹の動画が、突然ものすごい再生回数になったのです。
ルナ、ミュウ、モコがじゃれている様子が可愛かったのでたまたまカメラを回していたら、兄のルナが妹モコに後ろから抱きつき、プロレス技をかけるような仕草をしはじめました。
「モコ~。遊んでにゃ~」
「眠いにゃ」
「いいじゃ~ん」
明らかに鬱陶しそうなモコ。
「ねぇねぇ遊ぼうにゃ~!ガブ!!」
「痛いにゃ!」
「ガブガブ」
「痛~いにゃ~!」
すると、見かねたママがやって来ました。
「え~ん!ママ~!」
モコがママに擦り寄ります。
すると、
ママはモコを抱き寄せるかと思いきや、さっきまでモコが入っていた箱にスルスルと近づき、奪ってしまったではありませんか!
キョトンとするモコ。
撮影していた僕も予想のつかない展開でした。
とても楽しい動画になったので公開したら、それがYahooに紹介頂いたり、YouTubeのオススメにも取り上げられたのでした。
日に日に伸びる再生回数。当時は今ほどYouTubeが当たり前の時代ではなかったので、突然の変化に戸惑いました。でも、沢山の方に見て頂ける良い機会だと思い、それから、色々と学びながら、コツコツ動画をアップするようになったりしました。日々の猫たちとの触れ合いを見てくださる方と共有できることが、毎日の仕事の疲れを癒す一番の趣味になりました。
そして、
今では、YouTuberとしてであったり、他の方の動画の制作がお仕事になっています。
当時は想像もつきませんでした。
でも、
僕の小学生の頃の夢の1つは、映画監督でした。
半ば忘れかけていた映像のお仕事。
ぐれおじさんとの出会いから10年後のYouTuberデビュー。僕の人生が大きく変わり始めた瞬間なのでした。
第19話 完
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